フェア&ギアン ED



▼第十八話


偶然の出会いだって、今までは思ってた

だけど、もし・・・響界種の能力が、二人の心を繋いでくれていたのなら、姿を見せてよ。

エニシア…無事でいるんなら、今すぐに、わたしのことを呼んで!!



エニシア「ひっく…、っく、ひっく…」
フェア「あらあら…。やっぱ、予想通り泣いてたね? まったく・・・あなたって、やっぱり泣き虫だよね」
エニシア「・・・フェア? ホントに、ホントのフェアなの?」
フェア「ええ、そうよ。前に約束した通り、あなたが泣いているから、叱りにきてあげたの」
エニシア「・・・・・・っ!!」(フェアに抱きつく)
フェア「ちょ・・・ちょっとっ!?」
エニシア「よかった・・・っ! もう絶対会えないって思っ、てたのに・・・、きて、くれた・・・っ、フェアが・・・、きてくれた・・・っ、うわああぁぁんっ!!」
フェア「エニシア・・・」


フェア「・・・落ち着いた?」
エニシア「うん・・・ゴメンね、、また約束破っちゃった・・・」
フェア「今回だけは特別に見なかったことにしといてあげる。ともかく、無事でなによりよ」
エニシア「あれから、ギアンは私を部屋に閉じ込めたきりだから・・・」
フェア「じゃあ、今の様子を知ることも、逃げることも無理か・・・」
エニシア「うん・・・。だけど、なんとなく気づいてはいるの。ギアンは、きっと今とても恐ろしいことを考えているんだよね?」
フェア「・・・・・・・・・」
エニシア「そう、なんだね・・・」
フェア「ギアンは、自分自身を至竜へ変える儀式を行おうとしている」
エニシア「!?」
フェア「そうすることで幻獣界へと向かう門を開こうとしているの」
エニシア「どうして・・・、そこまでして・・・」
フェア「・・・復讐の為だって。ギアンは、自分を見捨てた父親に復讐を果たす為だけに、今までずっと生きてきたのよ」
エニシア「嘘だよっ!? そんなの・・・」
フェア「嘘じゃない!! わたしは直接、アイツの口から聞いたの! あなただって・・・薄々とは気づいていたんでしょ? 自分のことを話す時、ギアンは、笑みさえ浮かべるけれど、目だけは笑っていない。冷たく、尖った光を放っていることに」
エニシア「・・・・・・・・・」
フェア「それに、ギアンはあなたも犠牲にするつもりよ」
エニシア「・・・・・・っ!?」
フェア「至竜になったコーラルが教えてくれた。エニシアの能力なら幻獣界まで行くことはできるけど、引き替えに、おそらく命を落とすことになる」
エニシア「・・・そっか。はじめから、無理な願いだったんだね?」
フェア「エニシア・・・」
エニシア「でもね、私はそれで死んじゃうかもしれないけれど・・・ギアンの願いは叶うんだよね?」
フェア「な・・・ッ!? 何バカなことを考えてんのよッ!? 死んじゃうんだよ!! わかってるのッ!?」
エニシア「わかってるよっ!? でも・・・ギアンは、私の命の恩人なんだよ!? 私を牢から助け出してくれて、今までずっと守ってくれたんだよ」
フェア「だから、それはあなたの能力を利用するためで・・・」
エニシア「そんなんじゃない!! ギアンは優しくしてくれてたよ・・・っ、嘘じゃ、ない・・・。それだけは絶対、嘘じゃないよ…」
フェア「エニシア・・・っ」

フェア&エニシア「!?」



ソウカ・・・

ソウヤッテ、マタ・・・ 邪魔スル、気カ・・・

許さナイ・・・ ユルサ、ないぞ・・・

これ以上、エニシアの心をかき乱すなァッ!!



エニシア「ギアン・・・っ」
ギアン「裏切らせないよ・・・君だけは。絶対に私を裏切らせない・・・。裏切れるはずないッ! だって、そうだろう? 私は常に君の望みを叶えてきたんだよ。いつでも、何よりも優先して、君の願いを叶えてきたんだ? それを忘れたと、君は言うつもりなのか!? なあ、エニシアッ!」
エニシア「やめてえぇーっ!!」
フェア「やめてッ、ギアン!!」
エニシア「もう、いいよ。フェア。ギアンの言いたいこと、私は、よくわかるもの」
フェア「エニシア・・・」
エニシア「甘えていたんだよ、私は・・・。ギアンの優しさを当然のものみたいに誤解したままで。ずっと、今日まで甘え続けていたの。今まで拒まずにいたこと自体が、きっと、その証拠だもの。ごめんね、ギアン。ずっと気がつかなくて、その代わり・・・今度は、私が貴方の願いを叶える為にお手伝いするから」
ギアン「エニシア・・・」
エニシア「・・・行こう?」
フェア「ギアン・・・、わたしは、絶対に貴方に負けない。だって・・・このままじゃ、貴方は、確実に不幸になるから」
ギアン「なん、だと・・・?」
フェア「わたしは貴方より賢くないけど、でも、それだけはわかる。だから、全力で止めてみせる! 貴方も、エニシアも、これ以上悲しませたくないから!!」
ギアン「なにを、馬鹿なことを・・・」
フェア「いいよ・・・。信じたくないなら、信じなくても。でも、わたしは勝手に貴方たちを助けるから!! 嫌われたっていい。恨まれたっていい。でもね・・・わたしは、最後まで諦めないから! 諦めないから!!」



▼ED

リシェル/フェア「つ・・・っ、疲れたあぁ・・・っ」

ルシアン「二人とも、本当にお疲れ様」

フェア「うん、ルシアンもお疲れ様」

リシェル「にしても、最近のお昼時って、戦場そのものよねえ。ちょっと前まではお客が列を作るなんてありえなかったもん」

ルシアン「それはそうだよ! なんたってフェアさんは「ミュランスの星」が認めた、帝国最年少の有名料理人だもの。噂を聞いて、遠くから食べに来る人たちもいるくらいなんだよ」

リシェル「有名料理人ねぇ・・・」

フェア「そんなのは、他人が勝手に騒いでるだけよ。わたしはただ、ずっとこの町でおいしい料理を作り続けて、もっと、みんなに喜んでもらいたいだけそれだけでいいの」

リシェル「けど、原因はともかく人手不足は深刻よ!?」

フェア「確かに、みんなにお手伝いして貰うのも限度はあるよねえ」

リシェル「そもそも、あたしたち無償で手伝ってあげてるんだからね? これ以上、コキ使うんなら、本当にお給金要求しちゃうわよ?」

フェア「ぐ・・・っ」

ルシアン「まあ、お給金の話は冗談ってことにしても、ねえさんも僕も毎日確実に手伝えるってわけにはいかないし、アルバイトを雇うのは考えたほうがいいかも」

フェア「うーん・・・。わかってはいるけど、でもねえ・・・ウチの仕事はきついし、人間以外の常連だって沢山いるから、募集したところで人が来てくれるか不安だなあ・・・」

ギアン「ならば、ボクを雇ってはくれないか?」

フェア「え??? ぎ、ギアンっ!?」

ギアン「そこまで大げさに驚く必要はないだろう」

リシェル「そりゃ驚かないほうがおかしいってば!? なんで、あんたが今頃のこのこ顔を出したりするワケよ!?」

ルシアン「そうだよ!? 貴方は、あの後元の姿に戻ってエニシアたちと一緒に幻獣界へと旅だったはずじゃあ・・・」

ギアン「ああ、確かにその通りだよ。カサスや子供たちも無事に仲間のもとへ帰してやれたし、なんとかエニシアも母親との再会を果たすことができた。共に暮らすことは無理だったがな」

フェア「そっか・・・」

ギアン「心配はいらない。彼女は、ボクよりもずっと心の強い娘だ。今では隠れ里で至竜と一緒になって勉強に励んでいる。こちらの世界で暮らしていけるよう強くなるためにね」

フェア「・・・ってことは!?」

ギアン「そうさ、ボクらはこの世界で生きていくことを選んだんだよ。だから、こうして帰ってきたんだ」

リシェル「ふーん・・・なるほどねえ」

ルシアン「だけど、本当にそれでよかったの? こっちの世界で暮らすってことは、貴方が重ねてしまった過ちと、向き合っていくことなんだよ?」

ギアン「・・・・・・・・・」

ルシアン「面と向かって断罪をするつもりは、僕たちにはないけれど。そんなことしなくても貴方は、きっと自分を責め続けると思う。なのに、どうして自分から苦しむ道を選ぶって決めたの?」

ギアン「悔やむ気持ちはどこにいたって消えないからさ。例え、別の世界に逃げたって、自分は自分のままだから」

ルシアン「・・・・・・・・・」

ギアン「だから、ボクは決めたんだ。逃げるのではなく受け入れて、そして乗り越えようって。そう・・・君のようにね」

フェア「・・・は?」

ギアン「長い間、ボクは迷って愚かな過ちを繰り返してしまったけれども、君と出会ったことで思い知らされたんだ。どんな境遇であろうとまっすぐに生きようとすることはできる。歪んでしまうことへの言い分けにはならない。そして・・・そういう気持ちで生きることこそが本当の強さだってね」

フェア「そ、そんな・・・わたしは、別にそんな大したこと・・・」

ギアン「気どらず、そう言えること自体が、君の強さなんだろうな。憧れてるよ、悔しいけどね」

フェア「・・・・・・・・・」




リシェル「ねえねえ、ルシアン。これは強敵出現よ?」

ルシアン「あのね・・・僕は、別にそういうつもりじゃ・・・」

リシェル「そんなこと言ってると間違いなく、負け犬になっちゃうわよぉ? あの子、ああ見えて押しの強い相手にはめちゃ弱いからねえ。幼馴染みだからって油断してたら・・・」

ルシアン「もぉーっ、ねえさんのバカあぁーっ!!」

フェア「ちょっと、ルシアン。何をいきなり大声出してるのよ?」

ルシアン「な、なんでもないよ! あははははは・・・」

フェア「???」




リシェル「でもさ、ギアン。あんたの決意はまあわかったけどさ。だからって、なんでここでアルバイトする必要があるワケ? お金とか、しっかりもってそうなのにさ」

ギアン「クラストフ家の財産は正当な手段で得たものではないからね。できれば、むやみに頼りにはしたくない。それに・・・自分が食べていくのに必要なお金は、やはり自分で稼ぎたいんだ。そうすることで多分ひきずってきた過去と決別できると思うし」

フェア「わかったよ、ギアン。そういうことだったら私も協力してあげる。明日から、さっそくお手伝いよろしくね?」

ギアン「こちらこそ、よろしく」




リシェル「あーあ・・・言わんこっちゃない」

ルシアン「いいもん、別に・・・」

ギアン「そう心配しなくても抜け駆けはしないよ?」

ルシアン「!?」

ギアン「君もボクも、恐らくここからが本当の勝負になるだろうしね」

ルシアン「・・・負けませんよ?」

ギアン「ああ、望むところさ」

リシェル「やれやれ・・・。知らぬは当人だけ、か」

フェア「???」




ギアン「ああ、いけない! 肝心な用事を忘れてしまうところだった」

フェア「用事?」

ギアン「出張依頼だよ。君の料理が恋しくて堪らない人たちが、 是非、今夜の宴席で腕を振るって欲しいとご所望なんだよ。無論、君たち二人や、この町にいる仲間も招待したいそうだ」

リシェル「え、あたしたちも!?」

ギアン「ああ、遅くなったがこれは、それぞれの新しい門出を祝う、そのためのパーティなのだからね」

ルシアン「やったぁーっ♪」

フェア「もぉ・・・しょうがないなあまったく。そういうことなら行かないわけにはいかないじゃない」

リシェル「じゃあ、あたしたち早速、みんなに知らせてくるわね。いくわよ、ルシアン!」

ルシアン「うんっ!」

フェア「さーて、と・・・。とびっきりの食材を用意しなくちゃね。悪いけど、買い出し付き合ってくれる?」

ギアン「ああ、荷物持ちと財布役は任せてくれ。今日だけは特別だ」

フェア「うんうん、それじゃあ張り切ってご馳走作っちゃうぞーっ♪」






正直に言えば・・・
今でも、不安にはなるよ。

自分がしてきたことの重さは、誰よりもよくわかっているから・・・

いつまた、押し潰されて暗い気持ちに支配されるか
怖くて、堪らないよ


だけど―――


君のことを思うと勇気が湧いてくるんだ。
どうしようもないボクを闇の中から引っ張り出して、叱ってくれた君・・・

嫌われたくないから
心配をかけたくないから
顔をあげていようって思う

負けたくないって思えるんだ
こんな弱気を口にしたらきっとまた、怒られるけど




それでも、今は

君のすぐ側にいたい・・・











だからボクは
人として、この世界で生きていくよ

君が眩しく笑うこの世界で・・・






『君の側にいるために』


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