フェア&シンゲン 夜会話



▼第八話

フェア「びっくりしちゃった。まさか、あなたがあんなに強いなんて」
シンゲン「いやはや、そんなに感心するようなことじゃございませんよ。隠し芸ともいえないくだらぬものでして」
フェア「でも、そのおかげでポムニットさんは無事だったんだもの。ありがとう、シンゲン」
シンゲン「お役に立ったのならば恐悦至極でございます」
フェア「お礼をしたいんだけどやっぱ、路銀とかの方がいいよね? あんまり、大きな額は渡せないけど・・・」
シンゲン「結構でござんすよ」
フェア「でも、それじゃわたしの気持ちが」
シンゲン「ちゃんばらの芸で金を稼ぐことには、もう飽き飽きでしてね」
フェア「それって、さっきの居合いとか、剣術のことだよね?」
シンゲン「ええ、左様で。この世界に喚ばれた時から、ずっとそうしてきたもんですから」
フェア(ああ・・・そうだった・・・。この人も、召喚獣として、喚ばれてきた存在なんだ・・・)
シンゲン「さっきのあれはおいしいゴハンへの心ばかりのお礼。そういうことにしておきましょう、ね?」
フェア「うん・・・そういうことなら。明日の朝ゴハンは更に腕によりをかけなくちゃね?」
シンゲン「え・・・ということは、また白いゴハンを・・・」
フェア「当然でしょ?」
シンゲン「ひゃっほーっ♪ 有難いことこの上なしです!」


なんていうか・・・すごい人だよね。色々と・・・



▼第十話

シンゲン「親の因果が子に報い・・・か。むごいことですね」
フェア「・・・・・・・・・」
シンゲン「ですが、彼女のあの必死な姿に、自分は感服しましたよ。悪魔の力がすごいとかそういうことじゃあございません。あれだけの業を背負い、それでもなお、明るさを忘れずにい続けた彼女の心根の強さにですよ」
フェア「!」
シンゲン「人は、自身とは異なるものを、恐れから排斥したがるものです。異邦人である自分も大なり小なり、身につまされてますしね」
フェア「あ・・・」
シンゲン「半魔の血のせいで辛い目にあうこともあったでしょう。隠し通せるのならずっと、隠したままでいたかったでしょう。それをあきらめてまで彼女は、大切な存在を守ろうとした。相当の覚悟がなければできやしませんよ」
フェア「そうだよね・・・」
シンゲン「そうまでして守ろうとしたものこそが・・・彼女のあの明るさと強い心根を支えているものなんでしょうね。それをけっして忘れちゃいけませんよ。でなければ・・・彼女は支えを失って今のままではいられなくなってしまう」
フェア「!?」
シンゲン「支えておやりなさい。つきあいの長い貴方たちにしかそれはできぬこと。そうでござんしょ?」
フェア「うん、そうだよね! 忠告ありがとう、シンゲン・・・」


お世話になったぶん、今こそ、力になってあげなくちゃ!!



▼第十一話

シンゲン「どこの世界でもやっぱり、人間は同じなんですねえ。恨みや、しがらみを引き摺ってしまう」
フェア「え?」
シンゲン「自分はね・・・大きな剣術の流派の跡取りだったんですよ。幼い頃から仕込まれて、それに相応しい腕前になったんです」
フェア「それってわたしと同じ?」
シンゲン「いやいや、違いますよ。御主人はそれでも父上の教えをちゃんと血肉にしておられる。自分は・・・ははっ、恨むことしかできませんでしたから」
フェア「・・・・・・・・・」
シンゲン「ちゃんばら芸よりもこっちのほうが好きでしたしね。稽古をさぼっては習いに通ってましたよ。じつに、青くさい反発だったと思いますよ。今となってはね」
フェア「・・・・・・・・・」
シンゲン「姉が・・・おりましてね。この姉の想い人が道場の師範代でして、流派のことも、姉のことも、真剣に愛してくれている立派な御方でして、ただ、自分がいては道場を継ぐことだけは不可能だったわけで」
フェア「じゃあ、シンゲンがこっちの世界に残った理由って!?」
シンゲン「ま、そういうことです。召喚された偶然を利用させてもらったワケですな」
フェア「だからって・・・」
シンゲン「悔いちゃいませんよ。姉夫婦のためにも自分自身のためにもこれが一番でしたし。こうして、好きな芸で暮らしていられるわけでござんすから♪」
フェア「そのわりに、戦わせてばっかりでゴメンね?」
シンゲン「ああ、イヤミのつもりじゃございませんよ? 御主人たちのために剣を振るうことは苦ではありません。争いが生む、恨みやしがらみの重さをご存じですからね。だから、安心してお役に立てるんです」
フェア「シンゲン・・・」
シンゲン「それを忘れた結果があの先生のような犠牲者を生むんです。力や勝利ばかりを求めて、人の道まで踏み外してしまう」
フェア「嫌だよね・・・そういうのは・・・」
シンゲン「ですね・・・」


この人も、やっぱり色んなものを背負っているんだね・・・



▼第十三話

シンゲン「ねんねねんねと寝る子はかわいや、起きて泣く子はつら憎い・・・」
フェア「なんなの、その歌は?」
シンゲン「子守歌ですよ、鬼妖界のね。どうにも寝つけないので、一曲ぶってみようかと」
フェア「寝ようとしてる本人が歌っても意味ないんじゃ?」
シンゲン「いやまあ、そうですがね」
フェア「まったく・・・」
シンゲン「死んで花実が咲くものか、花実が咲くというならば、あの子の笑顔はなぜ、咲かぬ」
フェア「この歌って・・・」
シンゲン「ええ、そうです。子守歌ということになっていますけど、本当のところは、憂き世の無常を唄ったものなんですよね。死に行く者への哀惜と、残された物たちの嘆き。そして、死に急ぐ者を戒める為のね」
フェア「シンゲン・・・」
シンゲン「眠れない理由はね。腹が立って、仕方がないからなんですよ。どいつも、こいつも、得手勝手な理由へと酔いしれた挙句、ほいほい命を捨てるようなことばかりしてやがる。バカバカしいったらありゃしませんよ」
フェア「だけど、鬼妖界のサムライってたしか、そういう生き方をするものなんじゃないの?」
シンゲン「だから、自分はとんずらをきめてきたんですってば。自分の命は、自分のために使うもんです。見えない何かに捧げるもんじゃありませんよ」
フェア「なるほどね・・・」
シンゲン「しかし、それが当人にとって満足だってことでしたら、出しゃばって止めるほど、野暮天じゃありませんがね」
フェア「ははは・・・」
シンゲン「ま、なんだかんだ言って、自分は身勝手なんですよ。好きなように生きて、好きなように死ぬ。これだけできれば万々歳って思っているんですから」
フェア「でも、それって実際には難しいことなんだよね」
シンゲン「ええ、それがまさに憂き世の辛さというヤツでして・・・」


死んで花実が咲くものか、か・・・



▼第十四話

シンゲン「おやおや、御主人。ずいぶんとご立腹のようですねえ」
フェア「あたりまえじゃない。ギアンったら味方を騙したり脅したりして、あんな卑怯なことして恥ずかしくないの!?」
シンゲン「いいんじゃないですか。それが、本人にとって必要なことだったら」
フェア「なによ、シンゲン! あなた、ギアンの味方するつもり!?」
シンゲン「まあまあ、落ち着いて。そんなつもりなんか全然ないですってば。ただ、彼が必要もなくああいった真似をするような愚か者だとは、自分には、どうしても思えないんですよねえ」
フェア「まあ、たしかに・・・そんな気はするけど」
シンゲン「あるいは、彼は卑怯と呼ばれる覚悟をしてるのかもしれませんね」
フェア「どういうこと?」
シンゲン「さっきも言ったとおり、必要に迫られてるからじゃないですかね? そうまでして、彼にはやりたいことがあるのかもしれません」
フェア「・・・・・・・・・」
シンゲン「それにまあ、自分も似たようなことをしてきましたからねえ」
フェア「似たようなこと???」
シンゲン「自分を召喚した相手を脅しちゃったことがあるんですよねえ。そっちの呪文とこちらの居合い、どちらが先に届くのか試しますか、ってね♪」
フェア「な!?」
シンゲン「その結果、平和的に自由の身になれたというわけでして」
フェア「あ、あははは・・・」
シンゲン「追いつめられたら誰だって、必死になるもんですよ。見栄や体裁なんかクソの役にも立ちはしないですからね」
フェア「シンゲン・・・」
シンゲン「まあ、そうやって割り切ってしまうのも逃げでしょうしねえ。考え方は人それぞれだからこそ、厄介で面白いんですよ」


そう言われたら、なんか怒ってたのが、バカバカしくなってきたよ・・・



▼第十六話イベント

シンゲン「おや、岩戸は開いたようですね」
フェア「え?」
シンゲン「鬼妖界に伝わる昔話のことですよ。お天道さまがお月さまにからかわれて、拗ねて、洞窟に閉じこもったから夜ばっかり続いて、みんなが大層困ったってお話です」
フェア「・・・・・・・・・」
シンゲン「旅芸人が洞窟の前で賑やかに歌って踊ってみせるとね、もともと明るいお天道さまは、ついつられてしまって、岩戸を開けて一緒になって騒いでるうちに、自分が拗ねていたことも、けろりと忘れたそうですよ」
フェア「もしかして・・・その旅芸人の役をやりたかったとか?」
シンゲン「いえいえ、自分にはそこまでの芸はございませんよ。岩戸をぶった斬って引きずり出すくらいがせいぜいですね」
フェア「!?」
シンゲン「でもまあ、御主人は出てきてくれましたし、それでいいじゃございませんか?」
フェア「う、うん・・・」
シンゲン「それで、悩みごとは解決したんですか?」
フェア「正直に言うとね、まだ、迷ってる。でも、閉じこもってもなんともならないってことだけはわかった」
シンゲン「なるほどね・・・。だったら、それでもういいじゃありませんか」
フェア「え?」
シンゲン「悩んだままでもいいってことですよ」
フェア「でも・・・」
シンゲン「答えは、あとからついてくるもの。御主人は、今までずっとそうしてきたじゃないですか?」
フェア「あ・・・」
シンゲン「やりたいようにやればいいんです。夢中になっていれば、悩んでいたことさえけろりと忘れるかもしれないんですし」
フェア「シンゲン・・・」
シンゲン「まあ、なんであれ自分は、貴方のことを気に入ってますし。とことん、ついていくつもりですから。楽しめるうちはね」
フェア「そっか・・・なら、楽しめるようにしていかないとね?」
シンゲン「ええ、是非そう願いたいですな」
フェア「だけど、どうしてわたしをそんなに買ってくれてるの? 無茶ばかりしてる世間知らずな子供なのに・・・」
シンゲン「無茶さえできない世慣れた大人よりはずっとマシですよ。それに・・・」
フェア「それに?」
シンゲン「ゴハンを炊くのが上手ですから♪」
フェア「あ、あのねぇーっ!?」
シンゲン「いやいや、ホント重要ですから、これ。お嫁にもらうのなら必須条件ですよ」
フェア「え・・・」
シンゲン「言ったでしょ? 自分は、貴方のこと気に入ってるって」
フェア「えっ? えっ??? えええぇえーっ!?」
シンゲン「ぷ・・・っ、くくっ、あはははははっ!!」
フェア「か・・・っからかうなんてっ、ひどいよぉっ!? もう、知らないっ!!」


シンゲン「やれやれ・・・確かに、御主人はまだまだ子供ですな。冗談ですますのも駆け引きのひとつなんですがね・・・」



▼第十八話

シンゲン「・・・・・・・・・」
フェア「・・・よっ、と!」
シンゲン「おや、こんな夜中にこんな所まで、どうもご苦労様ですな」
フェア「それは、こっちのセリフだよ。眠らなくていいの、シンゲン?」
シンゲン「わかっちゃいるけど眠れない・・・だから、貴方もここにいるんでしょう?」
フェア「まあ、ね。三味線の音色も聞こえてきたし」
シンゲン「やかましいですかね?」
フェア「いや、なんていうの、そういう弾き方ならいいんじゃない? 月夜には、なんだか似合ってる気がするし」
シンゲン「おお、うれしいこと言ってくれますねえ。では、もうしばらく弾かせてもらいますか」
フェア「うん、お願い」


フェア「思えば、わたしたちが知り合ったきっかけもこれだったんだよね。大通りで、あなたが三味線の弾き語りをしていてさ・・・」
シンゲン「ええ、そうでした。路銀を稼ぐため、一曲ぶたせてもらってたんでしたねえ・・・」
フェア「歌い出した途端、客が逃げたのよね」
シンゲン「嫌なこと、しっかり覚えてますねえ」
フェア「でも、演奏の方はホントにすごかったよ。聞き惚れちゃったし。コーラルなんかすごく気に入ってたみたいだし」
シンゲン「ええ、おかげさまで久々の白いゴハンにありつけました」
フェア「だけど、そのせいでわたしたちの面倒にまきこんじゃった」
シンゲン「あれは、自分が勝手に首をつっこんだだけのことですって」
フェア「でも、剣で戦うのはやっぱ、不本意ではあったんでしょ?」
シンゲン「それは・・・」
フェア「ずっと近くで見てればそれぐらいのことはちゃんとわかるって。あなたは、剣の腕を一度も自慢してない。ううん、むしろくだらないものだってバカにしてるもん」
シンゲン「まあ、実際くだらないものですからねえ。流派だ、極意だ、作法だとかいってもとどのつまりは人を殺める方法でしかないわけですし。人を楽しませる芸事のほうが、よほど役立つってもんですよ♪」
フェア「・・・・・・・・・」


シンゲン「でもまあ、これも縁だったんですかねえ」
フェア「えにし?」
シンゲン「巡り合わせですよ。不思議な、ね。もしも、あの時御主人たちと出会ってなかったとしたら、おそらく、自分はもっと不本意な形で、だいっきらいなちゃんばら芸の封印を解いていたはずです。生きる糧を得るために」
フェア「!」
シンゲン「ですが、御主人と出会えたおかげで、無意味な殺人芸もちっとはマシな形で役に立ちましたよ。気の合う仲間たちを守ってあげられるんですからね?」
フェア「シンゲン・・・」
シンゲン「それに、白いゴハンも食べ放題ですし♪」
フェア「あ、あのねえ・・・っ」


シンゲン「でも、居候の身分も明日になれば、もうお終いです。争う理由が消えればもう、用心棒も必要ないでしょう?」
フェア「そっか、そうだよね・・・。シンゲンの三味線を聞くことができるのも今夜が、最後かもしれないんだね」
シンゲン「御主人・・・」
フェア「やっぱり、自治区に行っちゃうんだ?」
シンゲン「他にはあてもないですしねえ・・・。もっとも、路銀はすっからかんのままなもんですから、まだしばらくはこの町に留まっているでしょうけど」
フェア「うん・・・。だけど、なんだかちょっと寂しいな。もう、白いゴハンを毎日用意することもなくなるって思うと」
シンゲン「うーん・・・では、こんな妙案はいかがでしょうか? 夫婦になりましょう♪」
フェア「・・・は?」
シンゲン「結婚するんですよ」
フェア「誰と、誰が???」
シンゲン「もちろん、自分と御主人がですよ」
フェア「・・・・・・・・・えええぇぇ〜っ!? ちょ、ちょっと!? 冗談にしては、それ笑えないよっ!?」
シンゲン「そりゃそうですよ。だって、本気ですし」
フェア「ちょ、ちょちょ・・・ちょっと、待って!? 結婚なんて、そんないきなりすぎるよ。それに・・・わたし、まだ子供だし、女としての魅力だって全然駄目だし・・・」
シンゲン「幼妻なんてのは鬼妖界じゃ、さほど珍しくないですよ。それに御主人が自分自身を、どう思っていようとも自分は、貴方のこと気に入っちゃっているんですし♪」
フェア「う、あ、う・・・っ」
シンゲン「覚えといてくださいよ、フェア。自分はね・・・好きなものに関してはとことん、のめりこむ性分なんですよ? 妥協なんて、一切してあげませんからね?」
フェア「・・・っ!?」
シンゲン「まあ、今夜のところは仁義をきっただけでも良しとしましょうか。あんまり苛めたら明日の戦いに支障が出ちゃいますしね」
フェア「と、とっくに・・・っ。支障が出ちゃいそうになってるよぉっ!?」
シンゲン「じゃあ、その分はしっかり責任取らせて頂くとしますか」
フェア「え・・・」
シンゲン「守ってあげますよ。たとえ、五界の全てを敵に回したとしても、フェア、貴方だけは、絶対にね」




▼ED

シンゲン「いやはや、繁盛しているようでなによりですね」
フェア「他人事だと思ってのんきよねえ。もーっ、どうせなら忙しい時にやって来て手伝って欲しいよ」
シンゲン「いやいや、これでも自分は吟遊詩人の端くれですから、身につけた芸のみで稼ぐのが、本道ってもんでしょう」
フェア「ふーん・・・そういうからにはばっちり、稼いできたんだよねー? 溜まってるツケを払えるくらいに」
シンゲン「いやー、それがなかなか世間の風は厳しくって・・・」
フェア「いいよ、いいよ、最初から過大な期待はしてないよ」
シンゲン「とほほほ・・・酷い言われようだ」
フェア「ねえ、シンゲン、思うんだけどさ。歌で稼ぐんだったらこの町の盛り場よりもタラントの劇場とかに出演したほうが早いんじゃないの?」
シンゲン「うーん・・・そうしたいのは山々なんですけどねえ。ほら、自分は鬼妖界の人間なもんですからね。身元が確かじゃなきゃ信用してもらえないと思うんですよ」
フェア「あ・・・」
シンゲン「すくなくとも、聖王都では門前払いでしたし」
フェア「なんか、嫌だなあ。そういうのって・・・」
シンゲン「仕方がありませんよ。雇う側からすれば得体の知れない相手は避けたいでしょうし」
フェア「そうかもしれないけど、でも・・・」
シンゲン「ま、それに自分の芸は大舞台向きのもんじゃございませんし。じっくりと聞かせて心にしみわたらせるのが、流儀ですから」
フェア「うん、シンゲンのはそういう芸だよね。歌わなかったらの話だけど・・・」
シンゲン「ふはっ! こりゃまた、非常に手厳しいっ!!」



シンゲン「ふうっ、ごちそうさまでした。やはり、御主人の作ってくださるご飯は最高ですな」
フェア「よく言うよねえ。散々注文つけてくれたクセして。ミソを使ったスープやら、しょうゆ味の煮物や、和え物やら、おかげで鬼妖界の料理には、すっかり詳しくなっちゃった」
シンゲン「あははは」
フェア「まあ、苦労したぶん新しいレシピとかもできたんだけどね」
シンゲン「ほう、たとえば?」
フェア「潰したウメボシとチーズを巻いた魚の揚げ物は、リシェルとかミントお姉ちゃんに好評だったな」
シンゲン「うまそうですなそれは・・・」
フェア「はいはい・・・次に作った時には食べさせてあげるよ」
シンゲン「でもまあ、しかしなんですな・・・。いくら、おかずが美味かろうとも、自分としては白いお米のゴハンがなにより肝心でして」
フェア「こだわってるよねえ」
シンゲン「その点、御主人の炊いてくださる白いゴハンは、初めて食べた時からじつに美味かった。簡単そうに見えて、美味しく米を炊くのは難しいもんです。いったい、どこでコツを習ったんで?」
フェア「うーん・・・わたしは、なんとなく父さんのやり方を覚えてる限りでマネしてるだけなんだけどなあ」
シンゲン「ケンタロウ・・・たしか、そういうお名前でしたっけ?」
フェア「名前からしてちょっと普通じゃないでしょ?」
シンゲン「いや、鬼妖界ならそれほど奇妙でもありませんがね」
フェア「ホントに!? てことは、まさか父さんってシルターンの出身だとか・・・」
シンゲン「にしては、いささか腑に落ちない点があるんですよねえ。鬼妖界じゃ存在しないおかしな言葉なども使われるようですし」
フェア「ロレイラルの科学とか、サプレスやメイトルパについての知識も、中途半端なクセしてそれなりに持ってるみたいだからなあ」
シンゲン「得体の知れない御仁ですなあ・・・」



フェア「やめた・・・深く考えたってしょうがないもん。そもそも、父さんはずっと冒険者なんてやってんだから旅先で、変な知識を仕入れてきてるだけかも知れないしね」
シンゲン「なるほど、確かにそうかもしれませんな。いずれにせよ・・・そのうち、正式に挨拶させてもらわなくてはなりませんね。娘さんをください、と」
フェア「ふぇ・・・っ!?」
シンゲン「いや、この場合は入り婿という形になりますから、お世話になります、が適切でしょうかねえ。どう思います?」
フェア「だ、だから・・・その話は、ちょっと待ってって・・・」
シンゲン「甲斐性なしの自分では、やはりダメですかね?」
フェア「駄目とか、そういうことじゃあ・・・」
シンゲン「では、求婚そのものは受け入れてくださると」
フェア「あ、う、あ・・・っ」
シンゲン「まあ、今さら形式にこだわる必要もないかもしれませんがね。ひとつ屋根の下で暮らしている事実もあるわけですし」
フェア「だからって、部屋は別々じゃないの!?」
シンゲン「遠慮してますからね。でも、あんまり思わせぶりな態度で焦らされると・・・」
フェア「!?!?!?!?」
シンゲン「言ったでしょう。自分は、夢中になってしまったら、とことん、のめりこむ性分で、妥協は一切しないって」
フェア「・・・っ、わたし! 買い出しに行くの忘れてたっ!? 留守番よろしくっ!」
シンゲン「くくく・・・っ。自分も、ツメの甘いことで・・・。でもまあ、漬け物もお酒も、長く寝かして置けばおくほどに熟成されていくし、楽しみも増すというもんですし。まあ、気長に待つといたしましょうかね」




フェア「あうあうっ、わたしいったい、どうしたらいいのよぉ・・・っ? シンゲンの・・・っ、シンゲンのぉ・・・っ、ぶぁかあああああぁぁぁぁーっ!!」






いつまでだって、待ちつづけますよ。
自分にとってそれだけ価値のあることなんですから。


だから約束しましょう。
どんな相手を敵に回すとしても、必ず守ってみせますよ


大切なあなたを・・・






『最強の昼行灯』


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