フェア&リューム 夜会話



▼第四話

フェア「昼間の話なんだけどね。わたし、あなたがしたこと・・・召喚獣を助けたいと思ったこと、その優しい気持ちを否定するつもりはないよ」

リューム「え・・・」

フェア「困ってる相手を助けてあげたいと思ったのは悪いことじゃないの。でも、世の中ってのは正しいことだけじゃ動いてないから、よかれと思ったことでも、それが周りに不都合なことなら悪いことにされちゃう世の中って、そういう仕組みなのよ」

リューム「なんか、随分と詳しいな・・・」

フェア「それはそうよ。わたしも、どっちかといえば・・・理不尽なことには我慢できない性格だったりするからね。頭にきちゃうとつい、手が出たりしてたし・・・」

リューム「今は、そうじゃないのかよ?」

フェア「うーん、どうかな? 正直、わかんないよ。店をまかされてからは嫌でも、世の中と向かい合ってきたし。自然に、気持ちを抑え込むクセはついてきたかもね。大人になった・・・って言えば聞こえはいいんだろうけど」

リューム「めんどくさそうだななんか・・・」

フェア「まあね。でもそうしないと世の中から弾かれることになっちゃうし」


そう・・・父さんみたいにね・・・



▼第五話

フェア「でも、あなたが獣皇をぶっとばしたのには驚いちゃったなあ。ちっちゃくても、やっぱり竜の子ってことなんだね」

リューム「おいコラ、なんだよその言いぐさは。そんじゃ今まではオレのことなんだと思ってたんだよ」

フェア「生意気なお子ちゃまってところかな?」

リューム「な、なんだと〜っ!?」

フェア「ホントのことでしょ」

リューム「むぐぐぐ・・・っ」

フェア「けどまあ、これからは口ばっかりって言えなくなるね」

リューム「え?」

フェア「背中に隠れて鳴いていた頃からは考えられないくらい、あなたは強くなってる。そして、儀式のたびにもっと強くなってく。じきにわたしが守ってあげる必要もなくなるんだろうなぁ・・・」

リューム「・・・・・・。けっ!バカなこと言ってんじゃねえよ!」

フェア「え?」

リューム「力の継承が終わればめでたしめでたしって思ってるだろうけど、やられた連中が、はいそうですかって納得すると思うのか?」

フェア「!?」

リューム「オレのことに関係なくアンタはもう、恨みを買いまくってんだよ」

フェア「うぐ・・・っ」

リューム「ま、心配すんなよ。いざって時にはオレが、まとめて守ってやるからよ」

フェア「リューム・・・」

リューム「原因を作ったのはオレなんだからな。ちゃんと責任もって最後まで、面倒みてやるよ♪」

フェア「まったく・・・ちょっと褒めるとすぐこれなんだから」


でも、ありがとね、リューム・・・



▼第六話

リューム「・・・・・・」

フェア「どうしたの? 機嫌悪そうな顔して」
リューム「別に・・・。ただ黒騎士たちがオレのこと、キレイに無視しやがったからそれがちょっと面白くねーだけだよ」

フェア「ああ、そういえばそうだよね」

(竜の子供なんて見たら普通だったら驚くはずなのに、平然としてたっけ)

リューム「そもそも、オレだけに限った話じゃねえぞ。亜人に龍人、おまけに天使まで揃ってたのに無反応だなんてよ。あの鉄面騎士、感覚が捻くれちまってるんじゃねえのか?」

フェア「こらこら。きっと、あの人たちはああいう戦いの旅を続けてるせいで、不思議なことには結構、慣れっこだったのかもね」

リューム「なるほど・・・。あれくらいの図太さがないと、生き残れないってことか!」

フェア「いや、それはどうかと思うけど・・・」


きっと、わたしたちには想像もつかない経験をしているんだろうな・・・



▼第七話

フェア「どうしたのリューム? なんか、すっごく顔色が悪いけど?」

リューム「うう・・・っ、ぎぼちわる・・・っ」

フェア「・・・何か、変なもの拾い食いしたんじゃないでしょうね?」

リューム「拾い食いなんかしてねえよ! ただ・・・」

フェア「ただ?」

リューム「台所にあった料理をつまみ食いしたら・・・」

フェア「えーっ、あれってあなたの仕業だったの!?」

(味があんまりすぎて作り直すことにしたものなのに・・・)

リューム「なあ、怪我人にあんなもの食わせていいのかよぉ??? オレなら、絶対に苦い薬を飲む方を選ぶぞぉ・・・。げふうぅ・・・っ」

フェア「あ、はははは・・・」


まあ、元が薬なんだし害にはならないよね、多分・・・



▼第八話

リューム「・・・・・・」

フェア「リュームったらまだ寝てなかったの?」

リューム「あ、うん・・・。あのな・・・」

フェア「?」

リューム「今日だけ、一緒に寝てもいいか?」

フェア「ど、どうしたの? 一体、どういう風の吹き回し?」

リューム「う、うるせえっ! たまには、そういう気分になるんだよ!」

フェア「はいはい・・・。わかったから、早くベッドに入りなさい」


フェア「きゃっ、ちょっと? しがみついたりしたら苦し・・・!」

(この子・・・おびえてる…)

リューム「・・・っ」

フェア「そっか・・・今日の敵は、いつもと違ってたもんね。怖くなっちゃうのも仕方が・・・」

リューム「そうじゃねぇよッ!」

フェア「え?」

リューム「怖かったのはアイツらじゃねえ。本当に怖かったのは、怖かったのは・・・」

フェア「怖いことを無理に思い出したりしちゃ駄目だよ!」

リューム「けど・・・っ」

フェア「大丈夫。わたしが、こうして側についてるんだから。だから、目を閉じてゆっくりと体を休めなさい・・・」

リューム「う、うん・・・」


守ってあげなくちゃ こんなに不安がってる このコのことを・・・



▼第十話

リューム「前に、ポムねーちゃんが人質に取られた時、オレ、ホントは気づいていたんだ」

フェア「・・・え?」

リューム「リシェルねーちゃんが襲われた瞬間、悪魔の気配を感じて・・・。辿ったら、そこに怖い顔をしたポムねーちゃんがいて、おっかなかった・・・」

フェア「あの時にも、そんなことが・・・」

リューム「け、けどなっ! 今はもう、怖いって思ってないんだぞ! そりゃ、驚いたけど、でもポムねーちゃんはポムねーちゃんだ。いっぱい世話をやいてもらったし、優しくしてくれたし…」

フェア「リューム・・・」

リューム「だから・・・だから、なッ!?」

フェア「心配はいらないよ。ポムニットさんを仲間はずれになんかにはしないから」

リューム「よかった・・・」


でも、ポムニットさん本人がどう思ってるか、それが問題だよね・・・



▼第十一話

リューム「ギアン・クラストフ。あいつが、敵の親玉なんだよな・・・」

フェア「そうみたいだね。想像してたのとはだいぶ違ってたけど」

リューム「おお、オレもそう思ってたんだ。召喚師で、親玉で、ひでえ奴だって聞かされてたから、見るからに陰険そうな顔の奴だと思ってたんだけどなあ」

フェア「あははっ、どういう想像してたのよ?」

リューム「だってよォ・・・」

フェア「ま、わたしの想像も似たり寄ったりだったんだけどね。まさか、あんなにも落ち着いた人だなんて思ってもなかったよ」

リューム「おいおい、見た目がイケてるからって惚れんじゃねーぞ? 世の中には、外面と中身が一致しねえ奴の方が多いかんな」

フェア「ば、馬鹿っ! 惚れるわけないでしょ。大体、あなたそんなこと、誰から教わったのよ?」

リューム「リシェルねーちゃん♪」

フェア「はあ・・・っ、だと思った・・・。別に言われなくたってちゃんとわかってるよ、それに・・・あの人と話していてすぐ、気がついたの。丁寧な言葉や笑顔で上辺は繕ってみせてはいたけど、ギアンの目はずっと冷たい光を放っていた。まるでわたしのことをじっくりと値踏みするみたいにね・・・」

リューム「なるほどな、けど、オレが言いたかったのは違う意味のことだぜ」

フェア「え?」

リューム「いくら見た目がそう見えたって、アイツが、テメエと同じ、ニンゲンだとは限らねえってことさ」

フェア「あの人が、人間じゃないっていうの!?」

リューム「断言はできねーよ、けどな、普通じゃないことだけは確かだぜ。とんでもない魔力が全身から滲み出ていたしな・・・」

フェア「・・・・・・・・・」

リューム「それに、あの光・・・召喚術を消し去った得体の知れない力。あんなこと、普通のニンゲンにゃできるもんじゃねえだろ?」

フェア「たしかに・・・」

リューム「先代の知識ってのが封印されてなけりゃ、なにかしら手がかりを見つけられてたのかもしれねえけどな・・・」

フェア「リューム・・・」

リューム「わりぃな・・・ミョーな不安ばっか煽っちまってさ」

フェア「いいよ、いいよ。そんなこと、別に気にしなくても」


心配してくれるからだってこと、ちゃんとわかってるもの・・・



▼第十四話

フェア「金縛りにされた時はもう駄目かもって思ったけど・・・。なんとか、あなたとの約束を守れて、ホントよかったよ」

リューム「ああ・・・だけど、アイツは諦めねえぜ」

フェア「え?」

リューム「間近でギアンの目を見て、オレ、はっきりわかっちまったんだ。何がどうなろうと絶対、自分の目的を遂げようとする。アイツは、そういうギラギラとした目をしていたんだよ。飲み込まれそうなほど、とてつもなくヤバイ目つきだった・・・」

フェア「リューム・・・」

リューム「利口ぶった物言いもオトナぶった態度も、きっと全部、擬態だ。アイツの本性は獣だ、オレのこと、獲物だとしか思っちゃいねえ。腹をすかせたずる賢い獣なんだよ、アイツは・・・っ」

フェア「・・・大丈夫よ。もし、そうだとしても、あなたはわたしが絶対に守ってあげる」

リューム「フェア・・・」

フェア「だから怯えないで。わたしたちを信じて一緒に頑張るの。最後の最後まで諦めちゃ駄目!・・・いいわね?」

リューム「うん・・・」


震えてる・・・そうか、お前も必死なんだな・・・



▼第十八話

リューム「よう、散歩はもう終わったのかよ?」

フェア「リューム・・・もしかして、わたし起こしちゃった?」

リューム「うんにゃ、違うぜ。早寝したせいで、目が覚めちまっただけさ。で、ぽけーっと外を眺めていたら・・・」

フェア「わたしが出かけるのを見つけたってワケね」

リューム「そーゆーこった。じっとしてるのも退屈だったしな。よけりゃ、話し相手になって貰おうかって思ってたけど・・・」

フェア「いいよ、付き合ったげる。無理にベッドに入って眠れずにいるよりも気が紛れるしね」

リューム「へへっ、そうこなくちゃな」


フェア「はい、どうぞ」

リューム「おう! ・・・って、なんだ、温めたミルクかよ。大人になったんだし、大人の飲み物を期待してたのになあ」

フェア「生意気いわないの。あなたには、まだ早すぎるんだから。そもそも、ウチにあるお酒は、みんな料理に使うものばっかりよ」

リューム「ちぇ・・・。親子でくみ交わすの、いっぺん、やってみたかったのになあ」

フェア「別にミルクでだって乾杯はできるでしょ」

リューム「そーだけどさあ。やっぱ、カッコよくはないよなあ」

フェア「いいのよ、別に。今さら気どったってカッコつかないわよ。あなたとわたしは、そういう付き合い方をしてきたんだから」

リューム「まあ、そりゃそーか」


フェア「でも・・・思えば色々あったよね。流れ星になって落ちてきたあなたを拾った時から、まだふた月くらいしか経っていないのに」

リューム「そっか・・・それっぽっちしか経ってないのか。もう何年も、ここで暮らしていたような気がしてるのになあ」

フェア「密度の濃い毎日だったから・・・」

リューム「なあ、覚えてるか? はじめて一緒に町まで出かけた時のこと」

フェア「忘れるわけないでしょ。なんせ、あの時のあなたは大暴れの連続だったんだから。店先の品を盗み食いするわ、野良ネコととっ組みあうわ。挙げ句に、繋がれた召喚獣たちを逃がそうとして・・・」

リューム「大喧嘩したんだよな。アンタ、完全にキレて飛び出しちまったし。すげえ迷惑かけたって、今はちゃんとわかる。悪かったよな・・・」

フェア「いいよ、別に。わたしだって、今ならわかる気がするの。あの時のあなたの怒りは、当然のことだったんだってね」

リューム「フェア・・・」

フェア「次から次へと厄介事ばかり続いて大忙しだったけど、思い返すとさ、不思議と笑えてきちゃうのよね」

リューム「ああ、オレもだ。辛いことだってあったのによ、楽しいことしか出てこないんだよな、ホントにさ・・・。いつまでも、ずっとこうしていたいぜ」

フェア「リューム・・・」

リューム「ありがとな・・・フェア。アンタのおかげでオレ、ちゃんと大人になれる気がするんだ。遺産を継承するだけじゃ、きっとオレは強くなれなかった。アンタのすぐ近くでいろんなことを見て教わってきたから、オレ、胸を張って守護竜としての務めを果たそうって思える。逃げずに、ちゃんと受け入れる勇気を持つことができたんだよ」

フェア「違うよ・・・それはお互い様」

リューム「え?」

フェア「あなたと出会えたから、わたしも強くなれた。気づかなかったことに気づいたり、知らないことを知ったりして、昔のわたしよりは、少しはマシなわたしになれたって思ってる。ありがとう・・・」

リューム「フェア・・・」

フェア「ははっ、なんかガラにもないこと言っちゃったね?」

リューム「ああ、お互いにな」

フェア「守護竜になっても、たまには、顔くらい見せにきなさいよ」

リューム「・・・いいのかよ?」

フェア「あなたはわたしの子供、ここは、あなたの家! だから、遠慮することなんかひとつもないでしょ?」

リューム「あははは・・・っ。うん、そうだよなっ♪」



オレ、やっぱアンタの子供で幸せだ・・・

大好きだよ・・・母さん・・・





▼ED


リューム「おーっ、風が気持ちいいぜ」

フェア「ええ、こうやって草の匂いのする風に吹かれているだけで、溜まっていた疲れも吹っ飛ぶ気がするよ。本当なら、日がな一日こうしていたいくらいだけどね」

リューム「だったら、店を休めばいいじゃんか。一日くらいだったら別にかまわねーだろ?」

フェア「まあ、たしかにそうなんだけどね。わたしの料理のために遠くからやってくるお客さんたちを、がっかりさせたくないじゃない。だから、当分の間はなるだけ休みなしでがんばりたいの」

リューム「ったく、とことん料理バカだよなあ」

フェア「そう言わないで。ちゃんと、私も考えてるんだから」

リューム「え?」

フェア「お客さんの入りがもう少し落ち着いてきたらね、頑張ったぶん長めに休みをとるつもりでいるの」

リューム「ホントか!?」

フェア「たまには、こっちから隠れ里を訪ねていってもみたいし。帝都にも足を伸ばして、料理の本とか道具とか見て回りたいの。ミュランスさんにも新作料理、食べてもらわないとね?」

リューム「あのさ・・・そん時は、もちろんオレも・・・」

フェア「もちろんよ!」

リューム「やりぃーっ♪」

フェア「そのためにも、しっかり稼いでおかなくちゃね。お手伝いの方よろしく頼むわよ?」

リューム「おうっ!」



フェア「ふわあぁぁ・・・っ。あんまり気持ちいいから、眠くなってきちゃった・・・」

リューム「なら、寝とけって。休憩時間なんだしよ。時間がきたらオレが起こしてやるからさ」

フェア「じゃ、悪いけどお願いね・・・」

リューム「・・・・・・」





でもな・・・今になって、ホント思うんだよ・・・
あの時、この場所でアンタと出会わなかったら、オレは、一体どうなってたんだろうな


何も出来ずに、捕まって泣いていたのかな?
それとも、涼しげな顔して守護竜になってたのかな?


きっぱりと言いきれるのは、どっちに転んだとしても、きっと、こんなふうに毎日、楽しい笑顔じゃいられなかったろうな



たまたまの偶然だってアンタは、笑うけどさ
その偶然が、オレにはきっと、奇跡だったんだよ
感謝してるぜ?


こうして、オレのこと今も見守ってくれてるアンタにも…


そんなアンタと出会うきっかけを与えてくれた先代にも…




だから、胸を張ってオレは言い切れるんだ


二人の親から愛されてる今のオレは、きっと一番幸せなんだって!





(鐘の音)


フェア/リューム「・・・っ!?」

フェア「もしかして・・・寝過ごし、た?」

リューム「う、うん・・・」

フェア「あわわわわわわっ!? ま、マズイかも・・・! 全速力で戻るわよ! リュームっ!!」

リューム「おうっ!」







もう少しだけ、傍にいさせてくれよ?

アンタからもらったもの、ちょっとずつでも返していきたいからさ




な、母さん…








『永遠の絆』


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