ウィル×アティ夜会話


▼第15話


ウィル 「やりましたね 無色の派閥もしばらくはなにもできないでしょう」

アティ 「ええ、みんなが私に力を貸してくれたおかげです。
特にウィルくん・・・君がいなかったら、きっと私は立ち上がれなかった。 君の言葉が勇気づけてくれたから・・・私は、本当に自分が守りたかったものを、見つけることができたんだと思うの。 ありがとう・・・本当に、感謝してるよ」

ウィル 「別に・・・改めて、お礼を言われても困るんだけど・・・
そ、そもそも!お礼よりも先に次からは、ああならないように努力してくださいよ! 生徒に気を遣わせる先生なんて聞いたことないですよ。 まったく・・・」

アティ 「あははは・・・」

ウィル 「あとは、イスラを倒して紅の暴君を封印すれば戦いも終わりですね」

アティ 「ええ、だけど間違いなく今までで、一番きつい戦いになるでしょうね・・・
心も、身体も、全てをかけてぶつかっていかなくちゃ、きっと彼には勝てない」

ウィル 「でも、負けるつもりはないんでしょう?」

アティ 「ウィルくん・・・」

ウィル 「これだけ、多くの人たちが貴方の夢をかなえる手伝いをしたいと願ってるんです。
負けたら、承知なんてしない。 ううん・・・絶対に、勝たせてみせるよ! 僕たち、みんながね」

アティ 「ええ、そうよね! それが終わったらいよいよ、この島ともお別れだね・・・」

ウィル 「そうだね・・・みんなと別れるのはすこし寂しい気もするけど、でも、軍学校に行くって決めたのは僕自身だから。 きちんとやり遂げたいんだ」

アティ 「そっか・・・ウィルくんらしいね・・・」

ウィル 「だけど・・・もしも、先生が僕のために無理して帰ろうって思っているんだったら・・・残ってもいいんですよ?」

アティ 「え・・・」

ウィル 「それはたしかに、最後まで貴方に教えてもらえたほうが僕もうれしいけど・・・
でも、今の貴方はみんなの先生なんです 僕だけが独占していい人じゃない・・・だから・・・」

アティ 「ウィルくん・・・ありがとう・・・私のこと、思ってくれて・・・だけど、そんな心配なんかしなくたっていいんだよ」

ウィル 「え・・・」

アティ 「君が初めて、私を先生って呼んでくれた時、約束したよね? なにがあっても、私はずっと君の先生だよって・・・」

ウィル 「!」

アティ 「だから、君だけを、一人で帰したりなんかしない。 ちゃんと最後までおつきあいさせてね? だって、君は私にとって初めての生徒なんですから」

ウィル 「先生・・・そうだね・・・中途半端なのは、やっぱり先生らしくないよね」

アティ 「ええ、そうですとも! がんばりましょうね ウィルくん」

ウィル 「あの・・・それなんですけど・・・」

アティ 「?」

ウィル 「「くん」って呼び方、もうやめにしてくれませんか?」

アティ 「あ・・・」

ウィル 「なんだか、いつまでも子供扱いされてるみたいで」

アティ 「ごめんね!? もしかしてずーっと、気にしてたりしちゃってたかな・・・」

ウィル 「いいですよ・・・別に・・・」

アティ 「そっか・・・やっぱり、傷つけちゃっていたんだね・・・それじゃ、これは・・・」

ウィル 「・・・っ!?」

アティ 「おわびと、仲直りってことで・・・」

ウィル 「だ、だからって!?き、キっ、き・・・」

アティ 「それじゃ、改めてがんばりましょうね? ウィル」

ウィル 「・・・・・・」

アティ 「ウィル?」

ウィル 「・・・」 (ドサッ)

アティ 「きゃ!? ちょっと・・・しっかりしてぇーっ!?」





▼ED


ウィル 「先生! 先生ってば!?」

アティ 「あ・・・」

ウィル 「道の真ん中で、ぼんやりしてたら、通行の邪魔ですよ?」

アティ 「ごめん、ごめん!」

ウィル 「そんなだから、立て看板と正面衝突したりするんですよ、まったく・・・」

アティ 「あ、あれは・・・たまたま・・・」

ウィル 「たまたまでも、普通の人はぶつかったりしません!」

アティ 「うう・・・っ」

ウィル 「で・・・ぼんやりしてた原因はまた、あれですか? 島のみんなのこと考えてたんでしょう」

アティ 「うん・・・」

ウィル 「ま、無理もないよね。あの島で過ごした日々に比べたら、帝都の暮らしはどこか、味気ないもの。僕がそう思うくらいだから先生が、余計にそう思うのは仕方ないって思うし」

アティ 「みんな、元気でやってるといいんですけど・・・」

ウィル 「そうですね・・・。でも、先生はもうすぐ、みんなに会いに行けるじゃない?
学科試験も、戦闘実技も予想したよりも、いい点数で通過できたし・・・。あとは、明日の面接だけそしたら、家庭教師の仕事はおしまいなんだからさ」

アティ 「うん・・・最後まで、気を抜かずにしっかりね」

ウィル 「さっきまで、ぼんやりしてた先生がそう言っても、ぜんぜん説得力ないんですけど」

アティ 「う・・・っ」

ウィル 「あっははははは・・・っ。でも、こんな気持ちで試験を受けることになるなんて、思わなかったな」

アティ 「え?」

ウィル 「直に言うとね、試験そのものには受かる自信があったんだ。先生に教わらなくても多分、なんとかなっていた気がしてる」

アティ 「だよね・・・。実際、君はものすごくのみこみが早かったもの。
うれしい反面、思ってたの。どうして、家庭教師が必要なのかな・・・って」

ウィル 「僕も、そう思ってた。何度も、父に反発したよ。そんなに、僕のことが信用できないのか、って」

アティ 「それじゃ、もしかして最初、君が反抗的な態度をとっていたのは・・・」

ウィル 「今にして思えば、きっとやつあたりだったんだろうね。
自分を一人前として認めてくれない父に、腹を立ててすねていたんだって思う」

アティ 「そっか・・・」

ウィル 「でも、今になってようやく、わかったんだ。父が、貴方を僕の家庭教師に選んだのは間違ってなかったんだって」

アティ 「どうして?」

ウィル 「こうやって今、貴方と外を歩いていられることがその答えだよ。
一人で試験に取り組んでたらきっと、もっと切羽つまっていたんだろうなって思う」

アティ 「あ・・・」

ウィル 「貴方と出会う前の僕は、結果を出すことだけを考えて、行動していた。
自分の価値観だけを絶対と信じて、他を認められなくて。いつも、ピリピリしてた。触れるもの全てに、牙をむこうとする勢いで」

アティ 「ウィル・・・」

ウィル 「でも、それはおびえている動物と同じことだったんだね。
不安で、こわくて吠え続けることでしか自分を守る方法がない。父はきっと、そんな僕のことをわかっていて・・・だから、貴方を呼んだんだ。勉強だけじゃない、もっと大切なものがあるって僕に、気づかせるために」

アティ 「ご当主の買いかぶりのような気もするけど・・・」

ウィル 「つきっきりで、家庭教師を頼んだ相手は、先生が初めてだった、って言っても?」

アティ 「え!?」

ウィル 「それに、事実として貴方のおかげで、僕は変われたんだ。それだけで、充分だよ」

アティ 「そっか・・・」

ウィル 「悔しいけど、僕はまだまだ子供なんだろうな。気持ちについていけるだけのゆとりが、ぜんぜん足りない。今だって・・・どうしても伝えたいことがあるくせに、迷ってるんだ」

アティ 「伝えたいことって、私に?」

ウィル 「・・・笑わないでくださいね。貴方のことが・・・好きです・・・。
先生と生徒としてじゃない! 一人の女性として、僕は貴方が好きなんです!」

アティ 「うん・・・なんとなくだけど・・・わかってた・・・。君が、そういう気持ちで私のこと、見てくれていたってことは・・・」

ウィル 「先生・・・」

アティ 「わかっていたくせにダメだな、私・・・。うまく、君の気持ちを受け止めてあげられてない。困っちゃってるよ・・・。君と、おんなじだね? 気持ちだけが空回りして、頭、いっぱいで・・・」

ウィル 「迷惑ですよね・・・やっぱり・・・」

アティ 「そんなことない! ウィルの気持ち、素直にうれしいって思ってる。
でも・・・でもね・・・時間が欲しいの・・・自分のことを、きちんと見つめ直すために・・・」

ウィル 「自分を、見つめ直す?」

アティ 「私はね、ずっと今まで出会った全ての人を好きになろうとしてきた。
特別な人を決めるんじゃなくて同じくらい、みんなのことを好きになろうとしてきた。それで、いいんだって思ってた・・・」

ウィル 「うん」

アティ 「だから、わからないの。君のことを、本当の意味で好きなのかどうか・・・
そんな中途半端な気持ちで返事はできないよ! したくもない! だから・・・っ」

ウィル 「わかったよ、先生。ちゃんと、貴方の気持ちはわかったから・・・だから、泣かないで」

アティ 「う、うん・・・っ」

ウィル 「僕の気持ちさえわかっていてくれれば今は、それだけでいいよ。
自分でも、わかってるんだ。今のままの僕じゃ、まだ先生と、つりあわないって」

アティ 「ウィル・・・」

ウィル 「だから、待っててほしい! 僕が、ちゃんとした大人になる時まで・・・。だから、返事は、その時に聞かせてください。貴方が好きだっていう僕の気持ちは、きっと変わらないから・・・」

アティ 「うん、約束するよ・・・」

ウィル 「ええ、約束です」





いつかきっと、一人の男として貴方の前に帰ってきますから・・・





HOME





inserted by FC2 system